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Lee-Byung-hun addicted

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第2話

『釜山で愛を抱きしめて』 第2話




「うん。まあね。寄れたら寄るけど・・約束は出来ないから気にしないで予定入れていいから。」
仕事で日本に来る時必ず彼は電話口でこう言った。
「うそつき・・・強がっちゃって。絶対寄るくせに。」
・・と言ったことはまだない。
一度は言ってみたいと思っているが・・・彼が無理して寄ってくれるのは私が素直に会いたいと言えないことを知っているからだとよくわかっている手前そんな強気なことは一生言えないだろう。
そう。
私たちはどっちもどっち。
彼も私もお互い会いたくて仕方がないのだ。
私は勝手にそう思うようにしている。
そして無理をして来てくれた彼は私の勝手な思い込みが正しかったことを全身全霊で教えてくれる。
だから私は予定をいれるかも・・と言いながら彼が日本に来ると予定を入れずに毎晩彼を待つことになる。
彼に会いたくて仕方がないから。
彼が来るか来ないかは関係がない。
彼が日本にいる間の私の夜は全部彼のものなのだ。
会えても会えなくても彼を想いながら過ごす夜はとても切ないがとても心地よい。

そして今夜彼は日本にやってくる。
成田にもう到着しただろうか・・・・。
窓際に座り夜風に当たりながら綺麗な月を眺め彼の好きな赤ワインとグラスをふたつ用意して彼を待つ。
「ちょっと飲んじゃおうかな」
一人つぶやきワインのボトルをあけた。
グラスにワインを注ぐ。
そして空に浮かぶ月を眺めた。
「満月でしょ・・・十六夜月でしょ・・立待月でしょ・・・」
私は一人指折り数える。
彼にお月様と呼ばれるようになってから私は月が前よりも一層好きになった。月を彩る言葉はとてもロマンチックだ。
そう。
今日は満月から二日目だから「立待月」・・月の出を,立ったまま,まだかまだかと待っている昔の人と彼が来るのをこうしてまだかまだかと待っている自分。
私はふっと微笑んだ。
何故月の私が待っているのだろう。
そして彼を想う・・・きっと彼はこの月を見に私の元にやってくる。
そんな気がした。
お月様の勘だろうか。
そう想った途端、私は急にまだかまだかと待たれているお月様のような気分になった。


車がいつもの八百屋の前を通る。
店は既に閉まっていた。
「もう、11時過ぎだもんな・・」
僕は仕方なく手ぶらで下落合の家に向かった。
車を家の前に止めると門の隙間から揺の部屋に灯っている明かりが見える。
自分で表情が急に緩むのがわかる。
揺がきっと自分を待っているに違いないと思うと自然と顔がほころんでしまうのだ。
僕は智と車を降りて玄関の呼び鈴を鳴らした。
「あら、来たの?忙しいだろうに。全くご馳走様」
玄関から出てきた不二子さんは不機嫌そうにそう言った。
何かあっただろうか。
不二子さんが二階の揺に声をかけた。
挨拶をしに居間に上がるとトメおばあちゃんも不機嫌だった。
何でも楽しみにしていたスペシャルドラマが面白くなかったらしい。
「ビョンホン君はあんなつまんないドラマ出ちゃだめよ・・全く」
ブツブツと文句を言いながら不二子さんは僕の後ろに立っている智に興味を示している。
「あれ、その子どちら様?」
不二子さんは智を珍しそうに見ながら言った。
「え、初めてでしたっけ。こっちで僕の面倒をいろいろ観てくれている鈴木智くんです。」
「あ、そう。妻夫木君に似ていてなかなか可愛いじゃない。ね、お腹すいてない?」
「え?すいてます・・前にこちらでご馳走していただいたおにぎりが美味しくって・・・」
「あら、あの時もビョンホン君うちに来てたんだ・・」
「そうなんですよ・・あの時は大変で・・・」
僕が黙って見ていたら三人はいつのまにかすっかり意気投合し勝手に日本語でおしゃべりを始めた。
揺は相変わらず降りてくる様子がない。
僕は三人を居間に残して2階への階段を上がった。


揺の部屋の扉をそっと開ける。
窓を開けたままスタンドの灯りをつけたまま揺はソファに座って眠っていた。窓際にはグラスがふたつ。
赤ワインのボトルはもう半分以上空だった。
揺の穏やかな寝顔を見つめながら彼女の隣に腰掛けて僕は彼女の肩ををそっと引き寄せた。
揺の髪からシャンプーのいい香りがした。
その香りが漂った瞬間僕の本能は少し揺り動かされ始める。
揺は起きたのか起きていないのか・・・そっと微笑むと僕に身体を預けてきた。
「揺・・風邪ひくぞ。こんなに冷えちゃって・・」
夜風に当たって冷たくなった揺の身体をそっとさする。
揺の体は線が細い。
腕なんて今にも折れそうな気さえする。
僕はその折れそうな腕をさすり僕の大好きな腰からヒップのラインをそっとさすった。
「あったか~~い・・・ビョンホンssi・・・やっぱり来てくれたんだ。」
揺は目を瞑ったまま微笑んでそうつぶやくと僕の腕の中で丸くなった。
「ああ・・来たよ。君が待ってるってわかってたからね。」
僕が自慢げにそういうと案の定今まで可愛く僕の腕の中で丸まっていた揺がピクンと動いた。
「あなたが来るってわかってたから待っててあげたのに」
揺はふくれた口調でそういうと僕のほうへ向き直った。
そして僕の目の前であっかんべーをする。
揺のその顔が可笑しくて、お互い様だと端からわかっているのに交わされる二人の会話が可笑しくて、そんな彼女がどうしようもなく愛しくて僕は揺をぎゅっと抱きしめキスをした。
揺の唇から僕をどれだけ待ってくれていたかが伝わってくる。
そして僕は会いたくて仕方がなかった想いが体の底の方からわきあがってくるのを感じていた。
でも今日はもう行かなければならない。
明日の早朝から取材の予定がびっしりと入っていた。
僕は勇気を出して彼女から唇を離した。
「揺・・」
僕がそうつぶやくと彼女はそっと微笑んだ。
そして僕の頭を抱きそっと髪にキスをした。
そして「来てくれて嬉しかった・・・ありがとう。」と言った。
そして僕の髪を撫でる。
揺のフワフワとした優しさが僕の全身を包む。
きっと明日もいい日に違いないと思える幸福感に僕は包まれていた。
「あ・・そうだ。ワインぐらい飲んでから行ったら。あったまっちゃったかしら。」
揺は明るくそういうと窓際においてあるグラスにワインを注いだ。
「わ~~凄いよ。こんなの見たことがない。」
揺は嬉しそうに叫んだ。
「何?どうしたの?」
僕は不思議そうに揺に近づいた。
「ほら。」
と彼女は自慢げに言いグラスを指差した。
「わっ。」
僕は驚いた。
グラスに注がれた赤いワインの中に黄色いお月様が浮かんでいた。
「こんなことって本当にあるんだ・・・」
揺は嬉しそうにつぶやいて僕を見上げた。
彰介が以前揺が月に似ていると言ったときから僕にとって月は特別な存在になった。
昼も夜も揺に会えない時は月を見上げる。
そうやって僕は揺に会えないときもいつも彼女を身近に感じてきた。
今、ワインの中でユラユラと揺れる月は儚げに見える。
空に浮かぶ月だって今の僕にとってはかすんで見えた。
そう。
揺がいるときは僕にとっての月は揺なのだから。
本物の月だって輝きを失う。
温かく僕をそっと照らして抱きしめてくれる月・・・・僕にとって揺はそんな存在だった。
そんなことを考えてボ~ッとしている僕に揺はグラスを差し出した。
「はい。私を飲み込んで。」
揺は笑いながらそう言った。
僕は黙ってグラスを受け取りワインを一口飲んだ。
そしてもう一口口に含む。
そして揺を引き寄せた。
そして僕の愛で暖めたワインを彼女の口に注ぎ込む。
彼女の喉がゴクリと音を立てた。
その音は彼女が僕の愛を飲み込んだ音。
そして僕の愛は彼女の体中に染み渡っていく。
そして彼女の光は僕を身体の中から温かく照らすのだろう。
僕はもう一度揺を強く抱きしめた。
そして胸の中がさっきよりも温かくなっていることを感じていた。


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